アサリの島流し 1日目 - 太陽が神様っていうの、はっきりわかった。
(おがさわら丸25時間の旅 前編)
乗船口で幾人か見送りにきてくれた人々と別れてからのことからはじめる。
入口の係員に乗船券を渡すと、早い番号で乗れたのでレディースルームの壁際という、大部屋2等船室でも大変いい場所に指定された。それでも1つ2つ階段を降りる船室。身体より巨大なバックパックによろけながらギターを引きずる様を見兼ねてか、中の船員さんが船室までギターを運んでくれた。レディースルームは程よい人数で区切られ、女性だけあって荷物もまとまり良い。また、昼から寝てる人も非常に多くて自然と騒がしくない。後ほど4本映画が流れるビデオ上映用テレビも部屋に一つ、程よい音量でゆっくり見られる。
兎にも角にも席が決まれば安心と片付けも早々に、デッキに飛び出して出航を待った。
海に入ってからはそう思わなくなるが、港からだと一番上の甲板はとても高い。
向かいの3階にあたる見送りフロアよりずっと高い。でもわりとしっかり来てくれた人の顔が見える。むしろ呼びかけてくれた声も普通に届いた。
出航の合図とともに、下の方に結びつけてあったロープを港の職員さんが手で外す。
見送りの人がここ一番に手を振ってる。職員さんたちは整列すると一斉に黄色いハンカチを取り出して振る。おお、あの映画のやつ初めてリアルで見た、と感動しながら私も見送りに手を振る。
進み出すとぐんぐんスピードがのって、あっという間に小さくなる。あの3人にこれから1年会わない…という実感がまだまったくない。
海面はキラキラと太陽を反す。
やっと落ち着いてきた辺りで寒さにハッとして船内へ。船内だって初めての私には何もかも珍しく、小さい頃ブルートレインの中をそうしたように、ひたすらくまなく歩き回る。キョロキョロしながら階段を降りてたら、「ドーン!」という擬音語と共に先日いろいろ教えてくれた先輩が登場。わーっびっくりした!と思わず声に出してしまい笑った。先輩達も同じ船で冬休みを終え母島に戻るのだ。ただ船酔いに弱いらしい先輩はこれから寝たきりになるからゴメンね、楽しんで!と言い残し船室へ。でもこの船に知り合いがいるという感じがして、ちょっとホッとした。
明るい間は甲板と中をひたすらうろうろした。夜だけ船内レストランというのを使ってみたかったので、節約でコンビニおにぎりと自販機のチャルメラがランチ。
でも甲板で食べると美味い。なんかすごくうまい。その頃には島影もたまにしかなかい海の、180°パノラマを前にしたら180円のカップ麺すら贅沢だった。
14:30からは船内イベントで小笠原のビジターセンターの人によるレクチャーを受けたり、海を横目に新聞広げてみたり、仕事に向かってることをすっかり忘れそうになる程くつろいだ。
案内所の記念スタンプを押しに行くとき、壁の掲示物で日の出・日の入り時刻があるのに気づいた。確認すると17時前。これは、と満を持して16時半には甲板に構える。
薄雲の空の真ん中に刷毛で道を描いたような切れ間があり、その隙間に向け赤い太陽がゆっくりと進む、まさにその時だった。
海しかない海に沈む夕日の周りは神様の国みたいで、ずっと昔からたくさんの人間が太陽は神様っていうの、はっきりわかった。あんまり夢中で見ていたら、沈んで戻ってからもしばらく、目の中に小さな太陽が残ってた。
夕食はどうしても食べようと思ってた島塩ステーキの為に飲み物は煎茶で我慢。
というか、今日はもう酒飲むのももったいないくらい、なんかもうこれで充分、になってるから平気だが。船内映画は今の所、シェフとルーシーとナイトミュージアムを見た。最初の上映だけは甲板にいたから見てない。酔ってる人もいるのかもしれないけど、酔い止めの効果か私はまったく平気。
夜の海は漆黒。いったい島にちゃんと着けるかどうか、不安になる。
この船はもしかしたら、海ではなく宇宙を漕いでるんじゃないか?
そんなことを思いながら、ゆらゆら揺れる寝床についた。
初日から書くことが多すぎる。先が思いやられる。ほんと、これが自分の現実かなのかと疑うくらいの、今日が過ぎてる。
明日は朝日が見れるだろうか。