アサリの島流し 28日目 - 森に吹く風
プロフィールは横顔という意味がある。
昭和の小説やらでよく出てくるこの言葉使いはとても好きだ。
言葉やらテーマイメージ通りのサウンドではなく、敢えて間反対の曲調の中に、強烈なメッセージが映える、ということが音楽にもあったりするのだけれども。これもまた、横顔が美しいタイプの曲、と言えるかもしれない。さて太平洋のど真ん中な母島、ご想像通りの大変素晴らしい海に恵まれています。
でも私がその素晴らしいプロフィールに燦然と輝くと思うのは、森の素晴らしさであります。
最近島で知り合ったカナダ人の英語の先生が覚えてハマっているらしい日本語で言えば
文字通り、物語の世界にいるみたいです。
(「文字通り」って中々使わないから言われてどこで使うの⁈と思ったけど、ここで使えました。)
風が吹き抜けて鳥がさえずり、波の音も遠くに聞こえるこの島の森は、亜熱帯ならではのビジュアル。
島には人間の子どもも多いけど、幼木も結構多い気がする。柔らかい緑色した若い木がめきめきと背比べをしてたり、様々な植物とそこに暮らす動物が生命力豊かに生きています。
とにかく、どうやって住むのかっつったら悩んじゃうけど、がじゅまるの城感。
天気のいい日に見上げるとそれだけで気分がいいタコの木。
シダのような葉をつけた若い木々は障子みたいに明るいまま日光を柔らかくする。
ジャングルごっことか、ハックルベリーフィンとかロビンソンクルーソーやるなら静沢の遊歩道。
途中はほんと昼でも欝蒼として、森の洞窟みたい。ツリーハウスが自然にありそう。
って、ほんとに戦争中は海軍の施設があったらしいのですが…。
精霊が出てきそうなのは北進線沿いのがじゅまるの広間。
吹き抜けるように広間が空いてて、ここが無人島で辿りついたとしたら、ここに家作るだろうなあ、で場所。
南崎の森はジャングルクルーズだったなあ。
結構険しいし、低い木も多く、川の跡や池の跡だったらしい場所があったり、湿地ぽい場所も。
でも所々にたまに、壕になりそうな横穴を見かける。
それがすごい急な場所なんだ。なんとか遊歩道らしくなってるけど、ロープかなんか掴まないとヒヤヒヤする道に。そんなのを見ると、ここから近くの硫黄島のことを思い出す。
母島は空襲しかなかったらしいけど、こんな環境でライフラインやらも整備されてなかったろうし、物流も良くなかった時代、亜熱帯の孤島で急な斜面だらけ、二足歩行が普通に暮らしていくのも日々大変な場所だと思う。
ただでさえ自然の険しい中、生き物は静かにそれぞれゆっくり適応しながら生きてた場所で、ある日人間だけが追っかけっこしながら殺しあっている図が、もう狂気にしか思えない。
ヤモリや鳥やカタツムリは、一番でかい獣が頭イカれちまった!とでも思ったろうな。
この森にいると、自分がとても大きな獣ってことをつくづく考えさせられる。
そして私の足音は鳥が飛ぶ音やヤモリのカサカサに比べたら大きいけど、風や海に比べたらほとんど差のない小さなもので。
風が吹けば、ごおっと、それははるかに大きなうねりのような音で急峻な島の森を駆け抜ける。
夕方の森に雨が降る前の強い風が吹いたとき、私やヤモリやカタツムリや鳥たち、小さな生き物はみんな一斉に同じような顔で、ハッと空を見上げた。